エアレンディルの冒険 覚え書き(21)

共通歴590年 群羊月 28日

出掛けていくゴブリンの行方が気に掛かったのは私だけでは無かった。皆が皆ヤツの行方が気がかりだった。悩む我々を見て、隠れ身や忍び足を得意とするコナーが、ヤツの後を付けてみると言いだした。

確かにコナーの実力ならば、ゴブリンの一匹位に遅れを取ることはないだろう。だが、その先に何が待っているか分からない状況で彼一人を行かせるのはあまりに危険だ。そう意見を述べる私に、コナーは笑顔さえ浮かべて「危なそうならすぐ逃げてくるから」と言い、素早くゴブリンの後を追って行った。相変わらず、凄い勇気の持ち主だ。

静かな砦と、コナーの安全と、その両方を気にしながら、私たちは森で息を潜めていた。そんな状況でどの位待っただろうか。

やがて、一騎のグリフォンに乗った人間の戦士が問題のゴブリンを連れて丘の中腹に降り立った。彼は、ゴブリンを降ろすと直ぐにその乗騎に乗り、去って行く。

付けていったはずのゴブリンが(グリフォンに乗って!)戻ってきたのに、姿を見せないコナーの安全が気に掛かる。もしや何かあったのでは。
しかし、程なくコナーは森の木陰から静かに現れた。怪我もなく無事な様子のコナーを見て、私たちはほっと息をついた。

だが、彼の表情は明るいものではなかった。 彼は、その表情を暗くせざるを得ない理由──見てきた内容を語ってくれた。

ゴブリンを付けていったコナーが見たものは、ある冒険者の一団だった。木陰に身を隠し様子を窺うコナーの前で、ゴブリンはその冒険者から品物を受け取り、代わりに貨幣と宝石を支払ったらしい。

しかも、そのゴブリンは「手配書にあったエルフ達が来た」と冒険者に告げたというのだ。「だから、手を貸して欲しい」と頼むゴブリンは何故か萎縮しているように見えたという。

──ゴブリンは強い相手には卑屈になる。恐らくその冒険者たちは、ゴブリンを遙かに凌ぐ実力の持ち主なのだろう。

危険を冒し冒険者たちの顔が見える場所に身を移したコナーは、以前に取り逃がしたレンジャーがその一団にいたことを確認した。──アモッテン師の復活のため、とある砦へ出向いた私たちと戦った悪党だ。確か彼は密輸団の幹部だったはず。

あの冒険者たちは、拠点としていた砦を放棄しなければならなくなった原因を作った冒険者──つまり私たち──を恨み、その行方を捜していたらしい。近隣の妖魔たちに手配書を回す位に。

ゴブリンの願いに密輸団のボスらしき戦士は頷いた。彼は乗騎であるグリフォンにゴブリンを乗せると、その場を飛び立った。コナーを待つ我々が見たのは、どうやら密輸団の首魁だったらしい。
 
残りの密輸団が荷物をまとめて街道を去ってから、コナーは我々の元に戻ってきたのだった。時間をおけば、おそらく密輸団の幹部たちがこの砦にやってくるだろうとの情報を携えて。

コナーのその情報で、我々は砦の攻略を急がざるを得なかった。以前相手をしたレンジャーも、我々より上の実力の持ち主だった。その彼と同等と思われる一団がゴブリン共と協力し、砦に立てこもったら……恐らく攻略は難しくなるだろう。

そこで、我々は彼らが来ないうちに砦に潜入することを選んだのだった。