エアレンディルの冒険 覚え書き (3)

共通歴 590年・開花月・24日

到着

やはり、我が女神は格別のご配慮をくれたようだ。道中妖魔どもの襲撃もなくベルター神殿跡に到着することが出来た。

この神殿は切り立った崖の一箇所に巧妙に隠された裂け目からしか入ることは出来ないようだった。善なる光の元に身を晒すことが出来ない、まこと邪悪な神を奉る連中が建てそうな寺院である。
黒曜石で作られた門の上に掲げられていたベルターの印が削り取られていたが、これは数十年前に邪悪と対したジャスカー神官戦士団の手によるものだろう。入り口付近を皆で手早く調べると、焚き火をした形跡が見つかった。人数は数人から十数人。3,4日前のものであることも分かった。

前哨戦

こんなところで焚き火をしたものは誰かと疑問に思う前に微かな声が聞こえてきた。不勉強にして私には分からなかったが、どうやらゴブリンどもの声らしい。ゴブリン語の分かるコナーがこっそりと聞き耳を立てたところ、「早く持ち場に着け!」といった類の命令を出していることが分かった。そこで我々は(おそらくは)歩哨のため出て来るであろうゴブリンどもを待ち伏せることにした。

出てきたゴブリンはわずか3匹。もちろん我々の敵ではない。順当にこれらを倒し、ベルター神殿の内部へと進んでいった。

挟み撃ち

遺跡探索に慣れたローグのコナーを先頭に広い通路を慎重に進む。しかし、コナー自身は(思いの外)気楽に歩いていくので「大丈夫か?」と問いかけたところ、「ゴブリンの足跡があるところには罠は仕掛けられてないと思う」とのこと。なるほど、優秀な冒険者というものは無駄なところで労力は使わないものだと感心し、私自身も注意の方向を変えることにした。

歩哨のゴブリンどもに命令を下したものがまだ内部にいるはずと、その声や足音が聞こえないかと耳を澄ませてみたのだ。我々エルフは元来耳が鋭い。案の定、通路をまがり左の方へ遠ざかる足跡が聞くことができた。そっと目配せすると、同胞のティリダテネスはもちろん、コナーも気が付いている様子。まことに頼もしい仲間たちだと認識を新たにした。

もちろん邪悪なゴブリンどもの跳梁を許しておくような我々ではない。素早くその足跡がした方へと歩を進めた。ところが曲がり角を曲がると、私たちの姿を見たゴブリンとホブゴブリンが雄叫びをあげながら突撃してきた! しかも後方の壁がスライドしたかと思うとそこからもゴブリンどもが現れたのだ! 隠し扉を使って挟み撃ちを狙うとはなんと狡猾なゴブリンどもだろうか!

しかし我々も後方の警戒を怠るほどの間抜けではない。魔法使いのフベルトゥスを守るように後方に位置していた我が友シヴァが、隠し扉から現れたゴブリンどもを果敢に引き倒した。そこにフベルトゥスの〔魔法の矢〕が突き刺さり、次々と敵を倒していく。私も弓を持ったゴブリンに接敵した。こうして接してしまえば射手はうかうかと矢を射る暇はなくなる。慌てて取り出した小剣ごときに遅れを取る私ではない。長剣を振るいそのゴブリンをうち倒した。

前方から突撃してきたホブゴブリンは、私たちの攻防の間にティリダテネスが倒してしまったようだ。そのホブゴブリンを見るとほとんど一突きで倒してしまったっていた。敵の急所を的確に付けるその腕の冴え。森にいた頃より腕を上げたようだ。この調子で実践を積んでいけば、長老の語った勇者のようになるのも遠くはなさそうだった。しかし、そのティリダテネスの刃や、コナーの適切な射撃を生き延びた悪運の強いゴブリンが奥の広場へと逃げ込んでいった。

広間

慌てて閉ざされた広間の扉に音もなくコナーが近づいた。そっと耳を澄ませ中を窺うと、また足音ひとつたてずに戻ってきた。ゴブリンどもは、生き残りのその一匹だけではなくまだ数匹はいるようで、どうやらやつらの首魁に連絡を取ろうとしているらしかった。

伝令の命を受けたゴブリンが何故か嫌がっているようなのが不思議だとコナーが言ったが、人数が揃わないうちに各個撃破するのが戦略の基本。我々は広間の扉を開け突入することに決めた。

ああ、しかし。ゴブリンどもは狡猾であった。扉が開いた瞬間を狙うようにして一斉に弓を撃ってきたのだ! 先頭にいたティリダテネスは驚くべき体術でその矢を回避したが、隣にいた私に2本の矢が刺さった。

たかがゴブリンどもの撃つ矢と言いたいが、鎧の隙間に刺さってはそれも言い難い。激痛に気が遠くなり……。私は、コナーの呼ぶ声で目覚めた。慌てて立ち上げる私の前には、庇うようにティリダテネスがいた。

ホブゴブリンより一回り大きなゴブリンチーフと相対して。広間の奥から弓を撃ってきたゴブリンどもは、フベルトゥスの的確な〔眠り〕の呪文の前に全員が寝息を立てていた。そう、私が気を失っていたのはほんの一瞬だったのだ。それはコナーが素早く治癒の霊薬を飲ませてくれたおかげと言えるだろう。本当に私は良い仲間に恵まれたと思う。勇敢にして賢明。そして悪をうち砕くだけの力と善の心を兼ね備えた素晴らしい者たちだ! 

そんな仲間に応えるべく私は女神に癒しの奇跡を願った。自身の傷を塞ぎティリダテネスの援護に向かうためだ。もちろん我が女神はいつものように応えてくださった。善なる行いをする者を、女神は決して見放したりはなさらない。傷も癒え素晴らしい仲間と共にある私は、二度とゴブリンどもに後れを取ることはなかった。

赤竜

広間を制圧し、伝令のゴブリンが逃げた先に進もうとした我々をフベルトゥスが止めた。戦いの最中、奥に見えた影がドラゴンだというのだ! なるほど確かに赤い尻尾が見える。フベルトゥスが見たところ、まだ孵ったばかりの雛でほとんど休眠状態にあるだろうとのこと。赤い鱗のドラゴンはまさに邪悪の権限と言っていい存在である。放置しておいて良い存在ではない。しかし、またぞろ背後から襲撃されることも考えられる。そこで我々は赤龍の部屋へと通じる扉をゆっくりと閉め、細い通路へと歩を進めた。

通路

ローグのコナーが先行して通路を調べに行った。と! ふいに彼の足下が消失した!落とし穴だ!と我々が悟った時には、コナーはくるりととんぼを切り後方に着地していた。彼は「(ゴブリンの)足跡がないのに罠を調べ忘れた」とこちらを振り返り笑顔を見せたが……いやはや、すごい反射神経だ。彼以外の誰が罠にかかっていても、暗い闇の中へと落ちていただろう! 

その後彼は落とし穴のすぐ側、右手側に隠し通路があることを発見した。通路自体はまだ先に続いているが、暗くてよく見えないとのこと。そこで夜目の効く(エルフはすべからく夜目が効く)私が偵察を代わることとなった。通路の先は小部屋になっており巨大なファイアビートルがいた。

やつらは浅ましくも死体に群がりその腐肉を喰らうものどもだ。私は身を守りながらゆっくりと後退し、頼もしい仲間と共にその虫たちを葬った。

ドワーフ神官の亡骸

小部屋の奥にはさらにもう一部屋あり、そこにはドワーフと思われる遺体がひっそりと横たわっていた。彼の兜には聖なるジャスカー神の紋様があった。おそらくは数十年前に邪悪と戦った神官戦士なのだろう。亡骸の一部が変色していることから、邪神官から呪いを受けたかあるいは毒か……。ふと壁を見ると彼の遺言が残されていた。邪神官を打ち倒すも、その邪悪なる力によって自らも死が近いことや、遺品をジャスカー神殿に運んで欲しいことが刻まれていた。もちろん、善なる使命をはたした勇士に応えぬ我々ではない。略式だが祈りを捧げ彼の魂の安息を神々に願った後、彼の遺品をそっと運び出した。必ずジャスカー神殿に届けることを彼の亡骸に誓って……。

彼が命を賭して悪と戦った神殿で、これ以上ゴブリンどもをのさばらせておくわけには行かないと気持ちを引き締めた我々は、ゴブリンどもの首魁がいるであろう奥に向かって入り口付近からの分かれ道を進んだ。途中真新しい戦いの後が残る部屋を通ったが、これはゴブリンどもがここに住み着いていた動物たちと争った後だろう。

決戦

さらに奥へ続く通路からは、なにかを積み上げるような音が聞こえてきる。バリケードだ! コナーがそう気付く。ゴブリンどもは即席のバリケードを作って我々の侵入を防ぐつもりなのだ! まこと悪知恵ばかりまわるゴブリンどもだ。

しかし、完全にバリケードを作り終える前に突撃できたおかげで状況は五分と五分であった。首魁に率いられたゴブリンどもは、決して与しやすい相手とは言えなかった。しかも首魁は呪術師らしく、治癒の魔力の籠もったワンドで部下どもの傷を癒してしまうのだ!

だが、我々は怯まなかった。傷を癒す者がいると知ったティリダテネスは、小さな傷を積み重ねる戦いから狙い澄ました一撃を放つ方法へと瞬時に戦い方を変え、ゴブリンを一突きに倒していった。コナーは敵が作ったバリケードを利用し、そこから正確な射撃で敵を撃ち続けた。

曲がり角から戦況を見守るフベルトゥスも、狙い違わぬ〔魔法の矢〕で敵を射抜く。私もティリダテネスへの〔悪からの保護〕の奇跡を願った後、彼女と共に戦った。

激しい戦いではあったが、我が女神と善なる全ての神々の加護がある我々はこの戦いにも勝利した。

封印されし扉

ゴブリンどもの首魁を打ち倒した我々は、その部屋で奥へと続く隠し扉も発見した。この隠し扉こそが我々が手に入れた「青銅製の鍵」に合致する扉だったのだ。鍵を差し込み扉を開けると、地下へと続く階段が現れた。地下からは、まるで饐えた腐肉のような匂いが漂ってきた。この奥にはゴブリン以上の邪悪が潜んでいると予感した我々は、傷ついたまま突入するのはあまりに無謀と判断した。そこで、交代で見張りながら休息を取ることにし、癒しの力で傷を塞いだ。