エアレンディルの冒険 覚え書き(20)

共通歴590年 群羊月 28日

 
騒然となった砦は、しばらくすると不気味なほどの静まりを見せた。
私たちは(砦から発見されにくくする為)やや森の中へと後退し、コナーの帰りを待った。

彼はゴブリンに接敵する時と同じように、見事にその身を隠しながら我々の元に戻ってきた。ひょっこりと手近な木立からコナーの姿が現れた時は、正直に言ってかなり驚いた。エルフたる私の耳でも、彼が落ち葉を踏む音すら捉えられなかったからだ。彼はそれほど上手く気配を隠していたのだ。

コナーが戻ってきてからほんの僅かな後、砦の隠し扉から一匹のゴブリンが出てきた。ヤツは辺りを警戒するように見回すと、北の方へ向かって駆けていった。手に何かを持っていたようだが……。

細部を観察したコナーが言うには(この距離からよく見えるものだ)、貨幣を入れる財布とポーチを持っていたらしかった。貨幣を手に、ヤツは何処に行くのだろうか?

静まりかえった砦もそうだが、たった一匹のゴブリンの行方がとても気になって、私は思わず女神の名を小さく呟いていた。
 
──女神よ。どうか我々にご加護を、と。