エアレンディルの冒険 覚え書き(19)

共通歴590年 群羊月 26日〜28日

アバーオーズ丘陵を旅して約3日。荷物(予備の装備や食料)を積んだラバを連れての徒歩の旅だったが、幸いにも途中で怪物に出会うことは無かった。僅かにあったトラブルと言えば、ラバが大型の狼であるシヴァの接近に怯えていたこと位だろうか。
私はシヴァに少し離れた場所にいてくれるように頼み、怯えるラバをティリダテネスと共に宥めながら進んだ。

──道中の安全を見守ってくださった我が女神に感謝を。

3日目の朝。
朝焼けが空を染める頃、我々は『闇宴族』が拠点としている丘にほど近い森際に身を潜め、「砦」の様子を窺っていた。この森から砦までは約400〜500フィート。様子を見るにはやや遠い距離だが、(見晴らしの良い丘陵地帯に作られた拠点なので)これ以上進むと身を隠す場所がほとんど無くなってしまうので仕方がない。

砦の出入り口は全部で5つ。
両開きの正面扉の前には前回と同じく2匹のゴブリンが歩哨に立って居た。遠くて見づらかったが、奥の木戸の前にも1匹のゴブリンが見張りとして立っているようだった。
その他の3つの出入り口には見張りの姿は見あたらなかった。それも当然だろう。この3つの扉の内2つは入念に隠された扉だったからだ。前回、コナーが発見し教えてくれなかったら見逃していたに違いない。

どの扉から内部に侵入しても、見張り役のゴブリン共の目に止まってしまうだろう。それでこそ見張りだとも言えるのだが、難儀なことだ。
そこで我々は見張りのゴブリン共を(内部に気付かれぬ様に)倒し、2つの隠し扉の内どちらかから侵入する作戦を取ることにした。入念に隠された扉ならば、おそらく砦の重要な部分に繋がっていると考えたからだ。

奥の見張りへは隠れ身が得意なコナーが接近した。彼は、身を隠す場がほとんど無い砦の周囲であるにも関わらず(姿を隠しながら!)ゴブリンに接近し、急所を貫き一撃で奴を倒してしまったらしい。
もちろん我々だとて、そのコナーの姿を捉えられていたわけではない。倒れたゴブリンの姿がかろうじて見えただけだった。だが、それが約束していた合図だった。

私とティリダテネスは、奥のゴブリンが倒れたのを合図に、正門の見張りに向けて矢を放った。ティリダテネスの放った矢は確実にゴブリンの命を奪ったが、一瞬遅れた私の矢は、いきなり倒れた相棒に驚き微かに身構えたゴブリンの肩口に刺さるに留まった。
それを見たフベルトゥスは〔睡眠/スリープ〕の呪文を手早く唱えたが、眠りの魔法にすら耐えきったそのゴブリンは、扉を開け砦の中に逃げ込んでしまった。その後放たれたアレクセイの矢は、開きっぱなしの扉にむなしく突き刺さっただけであった。

砦の中は騒然となり、慌ただしい声がいくつも飛び交っていた。その声は、離れた森の中にいる我々まで届く程であった。