エアレンディルの冒険 覚え書き(14)

共通歴 590年・群羊月・19日

さらなる情報収集をするため、一時宿で集合した我々の元に、子供が一枚の書付を持ってきた。内容は、アモッテン師の訃報は確かなものであること、最後に連絡を絶った場所はハードバイとアーバ=オーズの中程にある砦で連絡を絶ったことであった。
誰に頼まれたのかと子供に聞いたところ、黒服の男からであることが分かった。すぐ側でさっき頼まれたばかりと聞き、素早くコナーがその男を探しに行った。

しばらくして戻って来たコナーは、その男を発見後尾行し、グレイホーク駐留軍の本部へ入って行ったことを確認してきたと語った。さらに彼は(どうやってか)アモッテン師と一緒に旅立った戦士が、グレイホーク軍の一員で師の元冒険仲間であるウラシュという人物であることも掴んできた。
ついでに(どう、ついでにしたのかが良く分からないのだが)書付にあった砦は、どうやら密貿易に関わる一団が根城にしているという話も聞いてきたコナーである。

ここまで情報が揃えば推理は可能だ。
おそらく、師はグレイホーク駐留軍から、ハードバイ市が行っている密貿易の調査を依頼され旅だったのだ。それならば、急な出発であったことや、私たちに相談がなかったことも頷ける。
そして(おそらく魔法で)定期的に連絡を入れる約束になっていたのだがそれが途切れ、そこから師が任務の途中で命を落としたと判断されたのだろう。軍は、師を復活させるため街中で聞き込みをしていた我々に目を付け、黒服の男が(所属を明かさないため)子供を通じて書付を渡し、師の所在を明らかにしたのだろう。師の復活、そして上手くすれば密貿易の証拠を我々にあげさせるために。

この推理ならば、ゲイル老師が〔念視〕の行使に積極的でなかった理由も分かる。老師は恐らくアモッテン師がグレイホーク駐留軍の依頼を受けたことを知っていたのだ。老師は、今は亡き友人たちが樹立したハードバイ市の政治中枢である女権政府が、グレイホークの禁じるブライトランドとの密貿易を行っていた場合を危惧したのだろう。我々がアモッテン師の意志を引き継ぎ駐留軍から依頼を受けたと思ったのかも知れない。それで師の現在位置の〔念視〕を断ったのだろう。
だが、我々にはどうしても老師の〔念視〕が必要だった。

件の砦までは強行軍でも約2日。山間の道を上っていく途中では、強力なモンスターにも出会うだろう。〔死者蘇生〕の時間的猶予は最長でも5日ほどしかなく、私たちの実力では山道をその時間内に乗り切ることは難しいと思われたからだ。老師に〔念視〕でアモッテン師の位置を確認していただければ、〔瞬間移動〕の巻物を使って山道を飛ばし、現地へ直接飛ぶことができる。

そこで、我々はもう一度ゲイル老師の自宅へと足を向け、集めた情報と推理をすべて老師にお話した。その上で、私たちがグレイホーク駐留軍の依頼で動いているわけではなく、純粋にアモッテン師の厚意に応えるために彼の蘇生を望んでいること、その為に老師の協力が必要なことを改めてお願いした。

我々の話にじっと耳を傾けていた老師は、聞き終えるとただ一言問いかけた。

『〔制約/ギアス〕は受けられるか?』と。

〔制約〕は術者の望む仕事を完遂させるために掛ける呪文で、対抗呪文で解除しない限りその効果は永遠に続く。しかも、その意に添わない行動を取ると絶え間ない苦痛に襲われ、命すら蝕むという強力な術である。

だが、私の───私たちの答は決まっていた。『はい』と声を揃えた私たちを、老師は目を細めて見つめ、私を選び別室へ来るようにと言った。老師が望む〔制約〕は、砦で知った情報を公開しないこと、密貿易の証拠を見つけたら老師にそれを手渡すことであった。
だが老師が唱えだした呪文は〔制約〕と似て非なるものだった。 

……この呪文は、〔初級制約/レッサー・ギアス〕?

この術は日が経てば自動的に効果が切れ、しかも術者の命に逆らっても与えられる苦痛は少なく、命に関わることもない。
何故と、問いかけようとした私を遮って、老師は無邪気な子供のような笑顔を浮かべながらこう言った。『かけた術が〔初級制約〕だったことも、口外しては駄目じゃぞ。上には〔制約〕として呪文料金を請求するんじゃからな』と。

その笑顔を見て、私は理解した。老師は私たちの真意こそを知りたかったのだ。私たちが真実アモッテン師の復活のみを願っていることを、〔制約〕を受け入れると答えた時点で老師は分かってくださっていたのだ。そして老師は、ハードバイ市の上層部と繋がりの強いにも関わらず、私たちを信用して、あえて強力な〔制約〕をかけずにおいてくださったのだ。私は老師の心遣いにただ頷くことしかできなかった。

こうして、我々はゲイル老師の協力も取り付けることができた。

老師はアモッテン師の知り合いであり、さらに〔念視〕の助けとなる魔法の品をも所持していたことも幸いだった。その上、老師は得意の幻術で(老師はノームであり、幻術を専門に修めている)〔念視〕した結果を〔上級幻像/メジャー・イメージ〕で創像して見せてくれた。おかげで私たちは、かなり詳細にアモッテン師がいる砦の状況が分かった。

丘を背にした砦は3階建てであり、3階部分が直接山の中へと伸びる坑道へつながった造りとなっていた。2階が正面入り口となり、そこには掘りに掛かる跳ね橋が用意されていた。アモッテン師の遺体は1階部分の小部屋に無造作に置かれているようだった。砦正面付近は平地が広がっており、隠れて近づくことは困難に思えた。

そこで我々は、直接3階部分へ〔瞬間移動〕し、そこから下っていく方法を取ることにした。

〔瞬間移動〕の巻物があるとはいえ、行使できるのは魔術師フベルトゥスのみ。一度で運べる重量には制限があるので、各人に〔縮小〕をかけた上(〔縮小〕は大きさと共にその重量も軽くできるので)、[物入れ袋/バッグ・オブ・ホールディング]に荷物を詰め込んでも全員運ぶことはできそうになかった。

そのため、砦に侵入する人数は絞るつもりでいたのだが、これも老師のご好意で、老師自らも〔瞬間移動〕を使い私たちを砦へと運んでくれることとなった。さらに必要人数分(相談の結果、シヴァと私とアレクセイの3人)の〔縮小〕の行使すら請け負ってくださったので、フベルトゥスはその他の呪文を用意することが出来ることとなった。まことにありがたいご厚意であった。

決行は明日早朝、〔死者蘇生〕の巻物をペイロア神殿で受け取ってすぐということになった。
私は、アモッテン師の復活をアローナ女神に祈り、夜を過ごした。