エアレンディルの冒険 覚え書き(15)

王国歴 590年・群羊月・20日

東の空に太陽が覗く前に、ペイロア神殿から使いがあり〔死者蘇生〕の巻物を受け取ることが出来た。ゲイル老師の家へ準備が整ったことを告げに行くと、朝早いにもかかわらず、老師は我々を暖かく迎えてくださった。

老師は、アレクセイ、シヴァ、私と、順に〔縮小〕の呪文をかけてくださった。老師の実力ならば、大きさは約半分、重量は10分の1まで縮小される。小さくなった私の隣で、何故か嬉しそうにコナーが並んでいたのが印象的であった。

〔瞬間移動〕を行使する前に、老師は〔秘術印/アーケイン・マーク〕の刻まれた小石を私に手渡した。これを持っていれば、老師が〔念視〕で私たちの様子を見る時の目印となる。老師は定期的に〔念視を〕使用し、もし私たちが危機に陥っているようならば、手助けする算段を考えるとまで言ってくださった。『儂はハードバイ寄りの監視役だからなァ』とわざと顔を顰めて仰ったのだが、その実、私たちをとても心配し、またアモッテン師の復活を願っている老師の心が見えて、きっと『みんな』で無事に戻ってくるという決意をより一層堅くしたのだった。

フベルトゥスと老師が〔瞬間移動〕を唱え、我々6人を砦上部へと転移させた。老師は(事前の約束通り)再び〔瞬間移動〕を唱えギルドの塔へと帰還した。

3階屋上部分で〔縮小〕の効果時間が切れるのを待つ我々であったが(〔縮小〕は大きさ・重量と共に、かかったものの肉体的能力──筋力など──をも低下させるので)、運悪く階段を上がってきた敵の歩哨に見つかった。他の敵に知らせられないように〔静寂〕の呪文を唱えようとしたが、効果範囲内に全員を納めることが難しそうだったので、急遽、階段付近を中心とし、階下に直接戦いの音を知られないようにしたが……どれほどの効果が望めるのかは疑問だった(歩哨に出た者の物音すら消してしまうので、すぐ下に誰かがいれば『異常』に気付く可能性が高い)。

現れた敵は、4人の戦士と、巨大な人型生物……トロールであった。トロールは、強靭な膂力と再生能力を誇る強敵である。およそ人間に協力することなど無いはずなのだが、密輸団は奴らを従わせるほどの何かを持っているのだろうか。

我々は普段とは違った陣形を、それでもすばやく整えた。筋力の下がっているアレクセイとシヴァは後方に下がり、フベルトゥスと自身の守りに全力を注ぐ。ティリダテネスが強敵トロールの移動を遮るように接敵し、戦士としての鍛錬を積んだコナーが(そう。彼は戦士としての鍛錬を旅の間に積んだのだ!)そのフォローに入る。私も筋力が下がっているので、いつものように前に出るわけには行かないが、〔信仰の盾/シールド・オブ・フェイス〕の奇跡を神に願うことで、ティリダテネスとコナーの援護を行う。

それにこの状態でも弓を引くことにはさほど問題は無い。呪文を行使した後は、トロールの背後から弓を撃ってくる戦士と射撃戦を行った。戦士の実力は、たいしたものでは無かった。駆け出しか、せいぜいが少々の修練を積んだくらいか。ともかく、私より戦いの腕が劣ることは確かだった。そこで私はシヴァに彼らの牽制を頼んだ。たとえ筋力が下がっていたとしても、狼の引き倒しは駆け出しの戦士には充分に脅威となるだろうと判断したからだ。

シヴァは持ち前の脚力を生かし、トロールの攻撃範囲を巧みに回避しながら、奥にいる戦士へと接近し、(小さくなっても)鋭い牙と、噛みついての引き倒しで彼らを牽制した。その隙を狙って私は弓を放ち、協力して4人の戦士との戦いを有利に進めて行った。

問題のトロールも、ティリダテネスとコナーの連携の前では敵では無かった。ティリダテネスに気を取られれば、コナーの短剣が巧みに急所を付くし、かといってコナーを意識すれば、彼女のレイピアが確実に命を削っていく。

我々は程なく全ての歩哨とトロールを倒し、その後階段を下りて砦へと侵入した。