エアレンディルの冒険 覚え書き(18)

*1

共通歴590年 群羊月 23〜26日

様々な人の助力を得て、お世話になった魔術師アモッテン師の復活を果たすことが出来た。続けて、懸念であったベルター神殿跡に巣くっていた吸血鬼も滅ぼすことも出来た。
こうして、我々は漸く本来の依頼──ゴブリンの一団『闇宴族』の脅威を取り除く仕事へと戻れることになった。だが、この回り道は決して無駄ではない。我々は、得難い経験を積むことが出来たのだから。

ベルター神殿跡からハードバイの街へ戻った我々は、新たな旅立ちのために様々な準備を始めた。 魔術師のフベルトゥスは少ない日程をやりくりして新たな呪文──〔暗視〕だろうか?──の習得に励んでいた。
盗賊のコナーは、冒険に必要な細々とした物を買いそろえる傍ら、様々な情報を集めて来てくれた。 

戦士のティリダテネスは日々の鍛錬の合間を縫って、冒険を引退して新たに工房を開きたいと言うアモッテン師の手助けをしていた。これには傭兵として雇ったアレクセイも積極的に手伝っていた。彼はもともと自分の武具店を持つという夢の持ち主で、今度の冒険から戻ったらアモッテン師の工房と共同で店を持つことになったのだ。それは嬉しそうに働く姿を何度も見かけた。

私は、神殿で聖務の手伝いをさせていただきながら、初歩の魔術書を学び始めた。私は女神の加護の元奇跡を使うことが出来るが、魔術もまた冒険の上で有用ではないかと考えたからだ。元々、我々エルフは魔術に親しむ種族だ。だからだろうか、(意外に思われるかも知れないが)難解な魔術書を読む時間というのは案外楽しいものであった。

──そして3日後。 皆で揃って傭兵ギルドへ行き、中断していた依頼を再開することを告げた。アモッテン師は、わざわざ街の門まで見送りに来て、無事の帰還を祈ってくださった。
 
……こうして私たちは、『闇宴族』の集落を目指して再び旅立つこととなった。

*1:覚書12から17は後日に更新する予定です。

エアレンディルの冒険 覚え書き(17-3)

王国歴 590年・群羊月・21〜22日

ゴブリンの一団の脅威があるとはいえ街道沿いの路であり、一度走破した道であったことも幸いし、我々は無事にベルター神殿跡へたどり着くことが出来た。
途中で、(ペイロア神殿からの)知らせを受け取ったらしい神官戦士たちに会うこともできた。別れ際に神官戦士団からの、武勲の祈りを受けることも出来たので、(我が女神の加護に加えて)彼の神のご加護も得られることだろう。

ベルター神殿の地下に入ると、以前より一層『闇』の気が強くなっていた。やはり地下の不死者が目覚めているらしい。気を付けながら地下一階部分、地下二階部分と移動し、不死者が封じられている扉の前に到着した。そこにあったはずの封印は、破り取られたかのようになくなっており、固く閉ざされていたはずの扉も開かれていた。

部屋の中には、『吸血鬼』と、それが作り出したであろう骸骨の群れが待ちかまえていた。元は邪神に使える神官であると言う情報の『吸血鬼』は、〔冒涜〕の術で場を不浄なる者たちに都合の良いように汚していたが、それを見越して〔聖別〕の巻物を用意してきた。私は、銀の粉を巻き、祈り、場を清めることで、不浄なる気を払う。
汚された場の中では常に倍する脅威を誇る骸骨どもも、こうしてしまえばティリダテネスの敵ではない。レイピアという奴らと相対すには不利な武器であるにもかかわらず、次々と奴らを倒していく。彼女はほとんど一息で骸骨どもを倒してしまった。私が神に〔不死者退散〕の祈りを捧げる暇がないほどに。

さらにフベルトゥスが〔加速〕の術を我々三人に掛けてくれたことで、常にない動きをすることが可能となった。私は、給血鬼の特殊能力である〔生気吸収〕を防ぐために、〔負のエネルギーからの防護〕の巻物を読み上げながらも、吸血鬼と戦うティリダテネスやコナーの元まで駆け寄ることが出来た。吸血鬼と対する彼ら二人は、コナーがヤツの気を散らしながら、その隙をティリダテネスが確実に突くという連携を見せていた。

ヤツは忌わしき不死者になることで様々な力を手に入れたのだろう。が、失ったものもまた多い。そのひとつが〔治療〕呪文による自身の回復ができないこと、だ。
彼が我々に与える打撃と、我々が彼に与える打撃が同じであっても、私たちには神が授けてくださる〔治療〕の術がある。

──吸血鬼が塵となり、完全に滅び去るまでそう長いことは掛からなかった。

エアレンディルの冒険 覚え書き(17-2)

王国歴 590年・群羊月・20日

まずはゲイル老師に密輸団のアジトで見つけた記録や書き付けのいくつかを渡し、ざっとみた砦の様子を伝えた。
砦で見つけた豪族の姫は、とりあえずアモッテン師が自宅で世話をするらしい。いつか彼女も国元に帰してあげないと行けないだろう。それとも「政治的」な何かがあって、ハードバイ市か、グレイホーク駐留軍がそれを行うのだろうか?
無事復活を果たしたアモッテン師は、未だ本調子ではないのに、(とても感謝をしてくれて)、宴の支度をすると言ってくれたのだか……私たちには休む暇はなさそうだった。

各所に報告に行った我々の耳に、ペイロア神殿が我々の報告した『ベルター神殿跡の魔物』を退治させるために神官団を派遣したという情報が入ったのだ。派遣された神官戦士は、まだ初級者といってもいいくらいの青年たちで、彼らでは恐らく地下の魔物には勝てないだろうと思われたからだ。

そこで、我々はペイロア神殿へと急ぎ、本当に神官戦士を派遣したのかを問いただした。帰ってきた答が是だったので、その派遣は危険なので取りやめてくれるように頼んだ。そして、替わりに我々が不死者退治に行くことを認めて欲しいと願い出た。

地下に巣くう不死者は恐らく『吸血鬼』。生半可な者を行かせても、ヤツの下僕が増えるだけなのだ。我々にとっても『吸血鬼』は強敵だが、敵の正体や強さ(〔不死者感知〕を実際に唱えたのは私だ)が分かっている者が行った方が勝算が高い。それに我々は、直接神殿跡の探索も行ったのだ。地の利も神官戦士たちよりあるだろう。加えて、我々の実力も、ここ数週間の冒険の中で確実に上がっている。おそらくは、『吸血鬼』を倒すことが出来るだろう。
こう告げた我々に、ペイロア神殿から正式な依頼として『吸血鬼退治』が命じられた。

こうして我々は、アモッテン師に新たな依頼の話を告げ、急ぎ旅支度を始めた。

エアレンディルの冒険 覚え書き(17)

王国歴 590年・群羊月・20日

彼が言うには、中枢メンバーである冒険者(彼を含んだパーティらしい)は、ちょうど砦を留守にしているということであった。主要なメンバーは、首領の「戦士」、参謀の「魔法使い」、「司祭」(ドルイドのように思える)、「コック長」(……ローグなのだろうか?)、そして彼の5人。特に首領はグリフォンを手なずけ、それによって移動するのですぐ帰還するとのことだった。

彼と同レベルの、しかもパーティを敵陣で相手取るのはいかにも不利なので、我々は迅速に砦の捜索に取りかかった。アモッテン師の遺体を発見後は速やかに撤退できるように心しながら。

〔念視〕通りに、1階は小部屋がいくつかあり、捕虜としたレンジャーの話に従ってあるひとつの部屋に入った。そこは、密輸団のボスが使っているであろう部屋で、取引の目録や、いくつかの書き付けなどがあった。

それらの書類に目を取られている隙に、レンジャーは縄で縛られたまま隠し扉(そう、隠し扉があったのだ)の向こうへと身を翻した。

単身追ったコナーだったが、レンジャーは先の小部屋にあった脱出路から姿を消してしまった後だったようだ。脱出路先はシュートになっていて、一度に何人もが追いかけられる作りではなかったし、この砦に来た目的はアモッテン師の救出であったことなどから、それ以上の追跡は諦めざるをえなかった。


別の扉を開けると、アモッテン師と、見たことのない男の遺体が無造作に放り出されている部屋だった。私は、彼の遺体に駆け寄り、ペイロア神殿より賜った〔死者蘇生〕の巻物を注意深く読み上げた。やがて、ゆっくりと目を開け、不思議そうに我々を見上げた。

我々は、手早く彼に事情を説明した。貴方の遺言を聞いたこと、そして復活を決意し、様々な人の手を借りてここまで来たこと、そして今復活を果たしたということ。さらに、密輸団の中枢メンバーが留守であったことや、すぐに帰還する予定であることなどである。

彼はすぐに事情を理解し、素早い帰還の為の策を我々に話してくれた。彼も移動を<瞬間移動>で行ったため、帰りの分と予備の巻物が砦のどこかにあるはずで、それを使ってハードバイへ戻ってはどうかと提案してくれたのだ。

我々は、彼の言に従って砦の捜索を再開した。

レンジャーから砦の構造を聞きだしていたこともあって魔法の品を置いた倉庫もすぐに見つかり、その中から師の持ち物である〔瞬間移動〕の巻物を取り返すことができた。その途中で、囚われていた女性(豪族の姫君らしい)を救出し、一旦ハードバイへ(魔法で)帰還する予定であることを納得して貰い、同行することとなった。

人数が増えたこともあり、余分な荷物(保存食や雑貨など)を捨て、残っていた呪文で重量を減らす等の修正をしながらであったが、無事〔瞬間移動〕で、師の自宅まで戻ってくることができた。

エアレンディルの冒険 覚え書き(16)

王国歴 590年・群羊月・20日

砦の中は既に戦闘態勢が整っているようであった。姿こそ見せないが、敵が各所に配置され我々を待ち受けていることが感じられた。だが、我々は引くことは出来ない。アモッテン師の遺体はこの先にあるのだから。

我々はティリダテネスを先頭に立て、すぐ後ろには回復役の私、その頭上(!)にコナー、真ん中にフベルトゥス、最後尾はシヴァとアレクセイが守るという隊列で慎重に歩を進めた。

まず敵はT字路で襲ってきた。正面から戦士と蛮族がティリダテネスを襲い、左右の通路の先では魔術師がワンドを構えてこちらを狙っていた。さらに弓兵も扉の影に潜んでいる様子だった。

普通なら、ティリダテネスは最大で3人の戦士の攻撃と、魔法使いの呪文、さらには弓兵の矢を耐えねばならないところであったが、〔蜘蛛渡り〕のスリッパを履き、頭上にいたコナーがそのうちの何割かの攻撃を引き受けてくれた。

戦士たちの腕はティリダテネスに遠く及ばないものであったので、彼女はその攻撃を危なげなく逸らし、また的確な反撃をしていくことが出来た。2人の魔法使い(ソーサラーのように思われる)は、〔魔法の矢〕のワンドを振るっていたが、そのダメージも私が癒しきれる範囲に収まっていた。

後方のフベルトゥスが、扉の影の弓兵と、敵後衛の戦士を眠らせてくれたことで戦いが楽になった。幾人かの戦士を倒し、余裕が出たコナーが、魔術師の一人を倒し、呪文の脅威も減った。戦いは私たちに有利に傾いてきた。

そんな時、正面から2刀流の戦士が現れた。二つの武器を操る術はレンジャー特有のものだ。かなり修行を積んだ戦士にも同じことが出来るそうだか、彼の動きはそこまでではなさそうだった。それでも、今の私たちよりは充分な手練れなのだが。
そんな彼でもティリダテネスを倒すことはできなかった。彼女は生来の資質に加え、戦士としての鍛錬、そして「戦い」の中に身を置くとこを経験し、優秀な戦士に育っていたのだ。その彼女を、同じく戦士としての鍛錬と、盗賊としての技を併せ持つコナーが補助し、フベルトゥスが的確な魔法の援護を行う。私がこの戦いですべきことは、少しでも彼女が傷ついたらその傷を<治療>するだけだった。

やがてレンジャーは倒れ、残った敵も我々の相手ではなかった。我々は(息のあったもの)の武装を解除し、おそらくはこの砦の中枢メンバーであろうレンジャーに簡単な治療を施し、目覚めさせた。砦内部の詳しい構造、及び戦力を聞くために。

エアレンディルの冒険 覚え書き(15)

王国歴 590年・群羊月・20日

東の空に太陽が覗く前に、ペイロア神殿から使いがあり〔死者蘇生〕の巻物を受け取ることが出来た。ゲイル老師の家へ準備が整ったことを告げに行くと、朝早いにもかかわらず、老師は我々を暖かく迎えてくださった。

老師は、アレクセイ、シヴァ、私と、順に〔縮小〕の呪文をかけてくださった。老師の実力ならば、大きさは約半分、重量は10分の1まで縮小される。小さくなった私の隣で、何故か嬉しそうにコナーが並んでいたのが印象的であった。

〔瞬間移動〕を行使する前に、老師は〔秘術印/アーケイン・マーク〕の刻まれた小石を私に手渡した。これを持っていれば、老師が〔念視〕で私たちの様子を見る時の目印となる。老師は定期的に〔念視を〕使用し、もし私たちが危機に陥っているようならば、手助けする算段を考えるとまで言ってくださった。『儂はハードバイ寄りの監視役だからなァ』とわざと顔を顰めて仰ったのだが、その実、私たちをとても心配し、またアモッテン師の復活を願っている老師の心が見えて、きっと『みんな』で無事に戻ってくるという決意をより一層堅くしたのだった。

フベルトゥスと老師が〔瞬間移動〕を唱え、我々6人を砦上部へと転移させた。老師は(事前の約束通り)再び〔瞬間移動〕を唱えギルドの塔へと帰還した。

3階屋上部分で〔縮小〕の効果時間が切れるのを待つ我々であったが(〔縮小〕は大きさ・重量と共に、かかったものの肉体的能力──筋力など──をも低下させるので)、運悪く階段を上がってきた敵の歩哨に見つかった。他の敵に知らせられないように〔静寂〕の呪文を唱えようとしたが、効果範囲内に全員を納めることが難しそうだったので、急遽、階段付近を中心とし、階下に直接戦いの音を知られないようにしたが……どれほどの効果が望めるのかは疑問だった(歩哨に出た者の物音すら消してしまうので、すぐ下に誰かがいれば『異常』に気付く可能性が高い)。

現れた敵は、4人の戦士と、巨大な人型生物……トロールであった。トロールは、強靭な膂力と再生能力を誇る強敵である。およそ人間に協力することなど無いはずなのだが、密輸団は奴らを従わせるほどの何かを持っているのだろうか。

我々は普段とは違った陣形を、それでもすばやく整えた。筋力の下がっているアレクセイとシヴァは後方に下がり、フベルトゥスと自身の守りに全力を注ぐ。ティリダテネスが強敵トロールの移動を遮るように接敵し、戦士としての鍛錬を積んだコナーが(そう。彼は戦士としての鍛錬を旅の間に積んだのだ!)そのフォローに入る。私も筋力が下がっているので、いつものように前に出るわけには行かないが、〔信仰の盾/シールド・オブ・フェイス〕の奇跡を神に願うことで、ティリダテネスとコナーの援護を行う。

それにこの状態でも弓を引くことにはさほど問題は無い。呪文を行使した後は、トロールの背後から弓を撃ってくる戦士と射撃戦を行った。戦士の実力は、たいしたものでは無かった。駆け出しか、せいぜいが少々の修練を積んだくらいか。ともかく、私より戦いの腕が劣ることは確かだった。そこで私はシヴァに彼らの牽制を頼んだ。たとえ筋力が下がっていたとしても、狼の引き倒しは駆け出しの戦士には充分に脅威となるだろうと判断したからだ。

シヴァは持ち前の脚力を生かし、トロールの攻撃範囲を巧みに回避しながら、奥にいる戦士へと接近し、(小さくなっても)鋭い牙と、噛みついての引き倒しで彼らを牽制した。その隙を狙って私は弓を放ち、協力して4人の戦士との戦いを有利に進めて行った。

問題のトロールも、ティリダテネスとコナーの連携の前では敵では無かった。ティリダテネスに気を取られれば、コナーの短剣が巧みに急所を付くし、かといってコナーを意識すれば、彼女のレイピアが確実に命を削っていく。

我々は程なく全ての歩哨とトロールを倒し、その後階段を下りて砦へと侵入した。

エアレンディルの冒険 覚え書き(14)

共通歴 590年・群羊月・19日

さらなる情報収集をするため、一時宿で集合した我々の元に、子供が一枚の書付を持ってきた。内容は、アモッテン師の訃報は確かなものであること、最後に連絡を絶った場所はハードバイとアーバ=オーズの中程にある砦で連絡を絶ったことであった。
誰に頼まれたのかと子供に聞いたところ、黒服の男からであることが分かった。すぐ側でさっき頼まれたばかりと聞き、素早くコナーがその男を探しに行った。

しばらくして戻って来たコナーは、その男を発見後尾行し、グレイホーク駐留軍の本部へ入って行ったことを確認してきたと語った。さらに彼は(どうやってか)アモッテン師と一緒に旅立った戦士が、グレイホーク軍の一員で師の元冒険仲間であるウラシュという人物であることも掴んできた。
ついでに(どう、ついでにしたのかが良く分からないのだが)書付にあった砦は、どうやら密貿易に関わる一団が根城にしているという話も聞いてきたコナーである。

ここまで情報が揃えば推理は可能だ。
おそらく、師はグレイホーク駐留軍から、ハードバイ市が行っている密貿易の調査を依頼され旅だったのだ。それならば、急な出発であったことや、私たちに相談がなかったことも頷ける。
そして(おそらく魔法で)定期的に連絡を入れる約束になっていたのだがそれが途切れ、そこから師が任務の途中で命を落としたと判断されたのだろう。軍は、師を復活させるため街中で聞き込みをしていた我々に目を付け、黒服の男が(所属を明かさないため)子供を通じて書付を渡し、師の所在を明らかにしたのだろう。師の復活、そして上手くすれば密貿易の証拠を我々にあげさせるために。

この推理ならば、ゲイル老師が〔念視〕の行使に積極的でなかった理由も分かる。老師は恐らくアモッテン師がグレイホーク駐留軍の依頼を受けたことを知っていたのだ。老師は、今は亡き友人たちが樹立したハードバイ市の政治中枢である女権政府が、グレイホークの禁じるブライトランドとの密貿易を行っていた場合を危惧したのだろう。我々がアモッテン師の意志を引き継ぎ駐留軍から依頼を受けたと思ったのかも知れない。それで師の現在位置の〔念視〕を断ったのだろう。
だが、我々にはどうしても老師の〔念視〕が必要だった。

件の砦までは強行軍でも約2日。山間の道を上っていく途中では、強力なモンスターにも出会うだろう。〔死者蘇生〕の時間的猶予は最長でも5日ほどしかなく、私たちの実力では山道をその時間内に乗り切ることは難しいと思われたからだ。老師に〔念視〕でアモッテン師の位置を確認していただければ、〔瞬間移動〕の巻物を使って山道を飛ばし、現地へ直接飛ぶことができる。

そこで、我々はもう一度ゲイル老師の自宅へと足を向け、集めた情報と推理をすべて老師にお話した。その上で、私たちがグレイホーク駐留軍の依頼で動いているわけではなく、純粋にアモッテン師の厚意に応えるために彼の蘇生を望んでいること、その為に老師の協力が必要なことを改めてお願いした。

我々の話にじっと耳を傾けていた老師は、聞き終えるとただ一言問いかけた。

『〔制約/ギアス〕は受けられるか?』と。

〔制約〕は術者の望む仕事を完遂させるために掛ける呪文で、対抗呪文で解除しない限りその効果は永遠に続く。しかも、その意に添わない行動を取ると絶え間ない苦痛に襲われ、命すら蝕むという強力な術である。

だが、私の───私たちの答は決まっていた。『はい』と声を揃えた私たちを、老師は目を細めて見つめ、私を選び別室へ来るようにと言った。老師が望む〔制約〕は、砦で知った情報を公開しないこと、密貿易の証拠を見つけたら老師にそれを手渡すことであった。
だが老師が唱えだした呪文は〔制約〕と似て非なるものだった。 

……この呪文は、〔初級制約/レッサー・ギアス〕?

この術は日が経てば自動的に効果が切れ、しかも術者の命に逆らっても与えられる苦痛は少なく、命に関わることもない。
何故と、問いかけようとした私を遮って、老師は無邪気な子供のような笑顔を浮かべながらこう言った。『かけた術が〔初級制約〕だったことも、口外しては駄目じゃぞ。上には〔制約〕として呪文料金を請求するんじゃからな』と。

その笑顔を見て、私は理解した。老師は私たちの真意こそを知りたかったのだ。私たちが真実アモッテン師の復活のみを願っていることを、〔制約〕を受け入れると答えた時点で老師は分かってくださっていたのだ。そして老師は、ハードバイ市の上層部と繋がりの強いにも関わらず、私たちを信用して、あえて強力な〔制約〕をかけずにおいてくださったのだ。私は老師の心遣いにただ頷くことしかできなかった。

こうして、我々はゲイル老師の協力も取り付けることができた。

老師はアモッテン師の知り合いであり、さらに〔念視〕の助けとなる魔法の品をも所持していたことも幸いだった。その上、老師は得意の幻術で(老師はノームであり、幻術を専門に修めている)〔念視〕した結果を〔上級幻像/メジャー・イメージ〕で創像して見せてくれた。おかげで私たちは、かなり詳細にアモッテン師がいる砦の状況が分かった。

丘を背にした砦は3階建てであり、3階部分が直接山の中へと伸びる坑道へつながった造りとなっていた。2階が正面入り口となり、そこには掘りに掛かる跳ね橋が用意されていた。アモッテン師の遺体は1階部分の小部屋に無造作に置かれているようだった。砦正面付近は平地が広がっており、隠れて近づくことは困難に思えた。

そこで我々は、直接3階部分へ〔瞬間移動〕し、そこから下っていく方法を取ることにした。

〔瞬間移動〕の巻物があるとはいえ、行使できるのは魔術師フベルトゥスのみ。一度で運べる重量には制限があるので、各人に〔縮小〕をかけた上(〔縮小〕は大きさと共にその重量も軽くできるので)、[物入れ袋/バッグ・オブ・ホールディング]に荷物を詰め込んでも全員運ぶことはできそうになかった。

そのため、砦に侵入する人数は絞るつもりでいたのだが、これも老師のご好意で、老師自らも〔瞬間移動〕を使い私たちを砦へと運んでくれることとなった。さらに必要人数分(相談の結果、シヴァと私とアレクセイの3人)の〔縮小〕の行使すら請け負ってくださったので、フベルトゥスはその他の呪文を用意することが出来ることとなった。まことにありがたいご厚意であった。

決行は明日早朝、〔死者蘇生〕の巻物をペイロア神殿で受け取ってすぐということになった。
私は、アモッテン師の復活をアローナ女神に祈り、夜を過ごした。